【ミステリー小説感想】「カクレカラクリ」 著者:森博嗣

からくり人形 高山

森博嗣のミステリー小説「カクレカラクリ」を読んだ感想。※記事中に表示を選択できる開閉式のネタバレ考察があります。

作品情報

作品紹介

あらすじ

廃墟マニアの大学生「郡司朋成」と「栗城洋輔」は、同じ大学に通う「真知花梨」に招かれて、彼女の故郷「鈴鳴村(すずなりむら)」にある工場跡地の廃墟を訪れる。

ふとしたことから二人は、天才絡繰り技師「磯貝機九郎(いそがい きくろう)」が明治時代に作ったされる”隠れ絡繰り(カクレカラクリ)”が、鈴鳴村に隠されていて、120年後のちょうど今年に動き出す、という伝説を知る。

興味をもった郡司たちは、花梨の妹・玲奈、その友人・山添太一、磯貝機九郎の子孫・磯貝春雄らの協力を得て鈴鳴村を探索するのだが…。

主な登場人物

  • 郡司朋成(ぐんじ ともなり):廃墟マニアの大学生
  • 栗城洋輔(くりき ようすけ):廃墟マニアの大学生
  • 真知花梨(まち かりん):大学生(鈴鳴村の旧家・真知家のお嬢様)
  • 真知玲奈(まち れいな):高校生 花梨の妹
  • 山添太一(やまぞえ たいち):高校生 花梨の友人で真知家と対する山添家の坊っちゃん
  • 磯貝春雄(いそがい はるお):理科教師 花梨・玲奈・太一の先生で磯貝機九郎の子孫
  • 真知源次郎(まち げんじろう):花梨の祖父 真知家の当主
  • 山添千都(やまぞえ ちづ):太一の祖母 山添家の当主

作品の雰囲気

時代は2000年代(2006年?)の日本。舞台は良く言えば自然豊かな、悪く言えば寂れた田舎村。廃墟見学にやってきたオタク男子大生二人が、村の中核を成してきた二つの旧家の対立などを垣間見ながら、正体不明(財宝?何かの仕掛け?)の伝説「隠れ絡繰り」を捜して村を探索するというミステリー作品。

暗号などの謎解き推理要素を含むが、”ハラハラ・ドキドキ”なサスペンス要素は少なめで、「隠れ絡繰り」という謎・不思議を追って村を探検する”ワクワク”寄りな作風となっている。何かが「起きる・起きない」と書くとある種のネタバレになってしまうため避けるが、田舎の穏やかさと若者たちの爽やかさが印象的。

ネタバレ考察(開閉式)

※ネタバレ注意(ここをクリックして開閉)※

「隠れ絡繰り」とは?

磯貝機九郎が作った「隠れ絡繰り」の正体は、神社の鳥居の梁に隠されている小さな絡繰り人形を地下の井戸(穴)に吊り下げられた重りの移動を使って動かすという仕掛けだった。

120年以上前に作られた絡繰りとしては精巧で、動き出すタイミングを測るための工夫も優れていて大掛かりでもあったが、大相な財宝(おもちゃはあったが)が眠っているわけでもなく、度肝を抜くようなインパクトもないのが特徴。

「隠れ絡繰り」の本懐?

実は磯貝先生が隠れ絡繰りのある場所を知っていたり、真知家・山添家の当主である源次郎・千都が60年も前に両家の血縁に関する真相を聞かされていたり、真知・山添家の使用人たちも全容こそ把握してはいなくとも断片的に「隠れ絡繰り」やそれに纏わる話を知っていたであろうから、おそらく「隠れ絡繰り」は本当のところ厳密には"隠されていなかった"のかもしれない。

製作者の磯貝機九郎は、120年後に動き出す「隠れ絡繰り」という"伝説"を作ることで、それを後世に伝えようとする者や、秘密を守ろうとする者、財宝に対する期待感を持たせて真知家と山添家を存続させようとした。なんて解釈も出来なくはないのかもしれないが、都合が良すぎるか(;´∀`)

いずれにせよ、村を探検した若者たちは「隠れ絡繰り」の表面的な地味さに惑わされず、そこに秘められた人々の意志の一辺を垣間見て糧にできたようだから、機九郎の目論見は上手くいったように思える。

花梨は、人工物で溢れる街中の風景を生まれ故郷の自然と重ねて、街中にも人の意志(魂?)が宿っていることを感じ取れるようになった。郡司と栗城は、マニアならよだれダラダラものの「隠れ絡繰り」に遭遇した後でも、街中の廃ビルなどレア度の低い廃墟に対する興味・関心を失っていないあたり、自らの趣味趣向の本質に一歩迫ることができた。


感想:★★★★☆

謎の因習をもった田舎村で若者たちが伝説の絡繰りを捜す「青春冒険ミステリー」という感じでしたが、ネチネチ・ドロドロした感じが全然無くて、スッキリ爽やかに読めました。ミステリーなんだけどサラッと読みやすいものが好きな人におすすめできそうな作品です!

読後に知りましたが、コカ・コーラの120周年を記念して書き下ろされた作品でテレビドラマ化もされたんだそう。だから作中にやたらとコカ・コーラの描写があったのか!

関連リンク:森博嗣の浮遊工作室 (ミステリィ制作部):カクレカラクリの項




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