森博嗣のミステリー小説Vシリーズ4作目「夢・出逢い・魔性」の読後感想。※本文の一部にネタバレがあります。
作品情報
- ジャンル:ミステリー、推理小説、探偵小説
- 著者名:森博嗣
- サブタイトル:You May Die in My Show
- 発売日:2003年07月
- 価格:税込745円
- ISBN:4-06-273806-6 978-4-06-273806-4
- 判型:A6 文庫
- ページ数:432
- 初出:2000年5月 談社ノベルス
- 参考:『夢・出逢い・魔性』(森 博嗣):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部
主な内容
20年前に死んだはずの恋人の夢に怯えるN放送のプロデューサーがテレビ局内の密室で銃殺される。犯行時の発砲音が1つなのに対して遺体には2つの銃痕。事件の核心にいると思われるアイドル少女が行方不明になり、更なる事件も発生する…。
今回は、素人参加型のクイズ番組出演のために上京してきた主人公たち4人が事件に遭遇!犯人は誰なのか、そして密室トリックの意外な真相が明かされるVシリーズ4作目の作品。
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ネタバレ考察(開閉式)
叙述トリック
犯人の特定プロセスや密室トリックの概要は作中で探偵役の紅子からしっかりと解説されるのでスッキリとした読後感があって好印象!しかし、作品全体としては著者が仕掛けたミスリードが幾重にも張り巡らされていて惑わされたなあ。
冒頭の「不思議の国のアリス」の引用では「入れ替りトリック」を連想させ、本文中の犯人の独白からは22年前に交通事故死した橋本祥子(生きていれば46歳)という犯人像を刷り込み、ストーリー内においてはこれ見よがしに小鳥遊練無の女装(性別の偽装)が描かれ、更に立花亜裕実の要領を得ない抽象的な表現も加わって、ヒントとミスリードの見分けが難しかったです。
夢野耕一郎の死は(偶然にも)因果応報?
橋本祥子の人格を"かぶった(なりきった)"状態で犯人の伊藤雅実(いとうまさみ)が行う作中の独白はあくまでも妄想だろうけど、夢野耕一郎が脅迫や嫌がらせを受けたのに警察に届け出なかったり、消音器付きの拳銃を用意して犯人の殺害を計画していた事から、何か後ろ暗いことがあったとも考えられる。
立花亜裕実との不適切(?)な関係もあるし、奇妙な運命の巡り合わせだったりするのかもなあ。
稲沢真澄の性別
解決パート後の紅子と稲沢の会話から稲沢真澄(いなさわますみ)が女性であることが判明。男女どちらの名前にも使えるということでミスリードの一環として「雅実(まさみ)」や「真澄(ますみ)」が仕込まれていたと思われるが、稲沢の性別を誤認させるトリックは全然見抜けなくて完全に騙された!
登場シーンでのスーツとネクタイ(男装している?)、保呂草と稲沢の出逢いの話で主語が抜かれ三人称で語られる一文「そのあと、一週間ほどずっと彼と一緒だった。」(文中の「彼」は稲沢ではなく保呂草を指している)。
そして止めが、保呂草と稲沢の関係が語られた際の練無の発言「え?一緒に泊まったのぉ?うわぁ、いやらしい(練無は稲沢が女性なのに気付いている?)」に続く紫子の発言「何でも自分の尺度でものを計ってはあかん。(紫子は稲沢を男だと思っていて、練無がいやらしいと言ったのは同性愛的な意味だと解釈した)」。
言葉遊び
タイトルの「夢・出逢い・魔性」が、「夢で逢いましょう」や「You May Die in My Show」に掛かっているトリプルミーニング。
小鳥遊練無の語尾の口癖「なりね(逆から読むと『ねりな』)」、「サラダはマリネ」、近田の反応「私は、練馬だけど…」等。コロ助か!
キャラクター
今作はとにかく練無がよく動いて事件の展開にも大きく関わっているのが印象的だった。全3作では中心的だった紅子は落ち着いた探偵役に徹していたけれど、最後の危機一髪担当や黒岩刑事との終盤での会話で魅せてくれたなあ。
保呂草と繋がりのある新キャラの稲沢真澄は中々面白かったので再登場に期待したいところだなあ(泥棒さんだったりするのかな?)。そして、作中最後の一文として保呂草が語る「私がかぶっているものは、それが好きらしい」という意味深発言、気になります!
前作から気になっている作中の時代設定については、「大魔王シャザーン(1968年)」「ドラえもん(1969年)」などが出てきたので、1960年代後半以降なんだろうなあ。紅子や保呂草は戦中生まれだったりするのかな?
★★★★☆
解決編の前に犯人については概ね分かったものの、密室トリックについては全くダメで、紅子の説明を読んで「あ~、なるほど」と合点がいきました。
著者のミスリードにまんまと嵌ってしまいましたが、犯人・トリック共に比較的納得しやすい形で解決するので読後感は良好!推理・探偵小説としてのインパクトは控えめなものの、広義のミステリーとしては、ストーリー・キャラクターの魅力なども含めて楽しめる良作でした。
- 前作感想:「月は幽咽のデバイス
- 次作感想:「魔剣天翔」
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