森博嗣の短編小説集「今夜はパラシュート博物館へ」を読んだ感想。記事の一部にネタバレを含みます。
作品情報
- ジャンル:短編集、ミステリー
- 著者名:森博嗣
- サブタイトル:THE LAST DIVE TO PARACHUTE MUSEUM
- 発売日:2004年03月
- 価格:税込669円
- ISBN-10:4062739836
- ISBN-13:978-4062739832
- 判型:文庫
- ページ数:384
- シリーズ:S&Mシリーズ、Vシリーズの登場人物を含む
- 初出:2001年1月
- 参考:Books.or.jp 【書籍の詳細】
作品内容
主な内容
森博嗣の長編推理小説「S&Mシリーズ」&「Vシリーズ」の主要キャラクターが登場する短編が3作、その他の短編5作が収録された短編集。ミステリー作品も含まれているが推理要素はあまり強くなく、どちらかというと文学的で不思議なお話が多かった印象。
世界観に繋がりのある「S&Mシリーズ」と「Vシリーズ」のキャラクターが登場するので、本作の発表時期から考えてもVシリーズの5作目「魔剣天翔」と6作目「恋恋蓮歩の演習」の間に読むと、より楽しめそう!
収録作品
- どちらかが魔女
- 双頭の鷲の旗の下に
- ぶるぶる人形にうってつけの夜
- ゲームの国
- 私の崖はこの夏のアウトライン
- 卒業文集
- 恋之坂ナイトグライド
- 素敵な模型屋さん
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ネタバレ考察(開閉式)
どちらかが魔女
西之園萌絵のマンションで開かれる推理会合(?)「TMコネクション(トーマ&萌絵)」にて、「犀川創平・西之園萌絵・佐々木睦子・喜多北斗・大御坊安朋・大御坊(旧姓:木原)恵郁子」が集まって"ミステリィ"を語るというお話。だが、メインの謎については冒頭で恵郁子が諏訪野に対して「大御坊ですけど」と名乗る大ヒントが示されるため、謎解きよりもS&Mシリーズキャラクターのやり取りを見て楽しむ内容ぽかった。
犀川が前座として話した「壁画のキリストの胸に釘が刺さっている謎」については、遠近法の平行線を描くために消失点となる場所に釘を打ってそこから糸を張るなどして線を引くのだそう。
双頭の鷲の旗の下に
犀川創平と喜多北斗の母校(私立TM学園)で起きた不思議な事件(現象)に、西之園萌絵と国枝桃子(薫田川夫人)も絡んでくるお話。S&Mシリーズで結婚の報告をしていたが詳細は語られなかった国枝桃子の夫「薫田川」も登場。
作中のイニシャルによって記される高校生「S、H、F」は、キャラクターの雰囲気や最後のやり取りからすると「S=犀川創平、H=喜多北斗、F=?」かもしれない。高校生組の話が始まる3章の冒頭に「ここで、若干の時間を遡る」という表現の"若干の時間"はひょっとすると十数年とかってレベルかもな~。
ぶるぶる人形にうってつけの夜
Vシリーズのメインキャラクター「小鳥遊練無」がN大学で、西之園嬢(?)と出会うお話。ぶるぶる人形のトリックは、作中で練無が解いてくれるのでスッキリするのだけど、フワンソワと名乗る西之園嬢が曲者。
ヒントになっている配置図は点対称になっていてローマ字の「M、O、E」にも見えるため「西之園萌絵」を連想させるが、時代設定が恐らくS&Mシリーズより前だと思うので、「今はもうない」と同じミスリードで、この西之園嬢は萌絵の叔母「西之園睦子(佐々木睦子)」の方かな。
ゲームの国
一応は探偵と助手が出てきて孤島でおきた殺人事件に挑むという話だが、作中のどこか抜けたゆる~い空気感が印象的だった。
主人公の探偵「磯莉卑呂矛(いそりひろむ)」の名前をローマ字に変換して逆から読むと「ISORIHIROMU」、最後の「U」を除くと「MORIHIROSI」になっていた。他にもアナグラムが隠されていそうだな~。
私の崖はこの夏のアウトライン
全体的に緩い雰囲気のお話が多いこの短編集の中で、唯一緊迫感を感じさせる展開が含まれる作品だった。短く区切られた文章が連続する技法は、作中人物の心境や緊張感が読み手側にも伝わってきてテンションが上がる!
卒業文集
順不同の卒業文集が連なって構成された作品。読み進めていくほど「何かおかしい」と違和感を覚え、後半で「なるほど」と思わせてくれるところが面白かった。
最後の卒業文に書かれているように、この卒業文集は「特別支援学校(盲学校)」の生徒たちが書いたものと思われる。視覚的な情報や表現が欠如している事にどの時点で気付くか。
恋之坂ナイトグライド
「卒業文集」と同じように、最初は普通の話に思わせておいて「実は…」という、鳥さんのお話。渡り鳥と渡らない鳥の恋か…。
素敵な模型屋さん
おもちゃ好きな少年のお話。だが、歳をとって白髪に眼鏡で髭も白くなった「僕」が、子供の頃を回想しながら見ている夢のようでもあって不思議!
子供が見ている夢なのか、老人の回想なのか、或いはその両方かもしれないが、おもちゃ(模型)への熱い思いと幻想的な雰囲気が魅力的だった。もしかしたら、主人公の「僕」は、森先生自身だったりするのかな(*´∀`)
感想:★★★★☆
S&Mシリーズに登場した大御坊安朋や国枝桃子の新たな側面や、VシリーズとS&Mシリーズの繋がりを垣間見せてくれるなど、シリーズ読者のファンの作中世界観を広げてくれる楽しい短編集でした。その他の編も、ちょっぴりホラー要素があったり、洒落が効いていて面白かったです。
次作に当たるVシリーズの6作目「恋恋蓮歩の演習」は豪華客船が舞台で楽しそうなので、早く読みたいです。
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